なにやら、プロ野球はまた「統一球」問題で揺れているらしい。
普段なら、わざわざブログに書いたりはしないが、先日、新聞にその「統一球の第一回の検査結果」というのが載っていた。その数字がなかなか興味深く、この「統一球」問題を、部外者の視点で書いてみるのも面白そうなので、記事にしてみることにする。
このときの大切な視点は「バラツキ」と「カタヨリ」である。強調するためにカタカナで書かせてもらった(業界でカタカナが標準というわけではなく、強調するためにそうした)。
まず、野球の球には、跳ね返ったときの跳ね返り具合を示す「反発係数」というのがあるらしい。その反発係数はある範囲に入っていなければならないらしく、「統一球の規定」というのが載っていた。統一球の反発係数は、
0.4034〜0.4234
の間でないといけないそうだ。
ところで、この数字は「作りやすさ」という立場から見て、どうなのだろうか? 別の言い方で言うと、野球のボールで反発係数を規定範囲に収めるのは難しいのだろうか? それとも簡単なのだろうか?
この数字を分解すると
中心の値 :0.4134
上限〜下限の幅 :0.0200
上限〜下限の幅が、中心値に対してどれくらいかを%で示すと、
0.02/0.4134 = 4.84%
プロ野球のボールは、作るに当たって、反発係数のバラツキを、その中心値の5%弱に収めないといけない、となる。
狙った値の5%に収まるように物を作る、というのは難しいことなのだろうか? ケースバイケースだし物にもよるのだが、5%というのは自分の感覚だと「難しくない」部類である。もちろん安定して出来るような仕組みや策は必要だが、特別扱いはしない。これがもう一ケタ厳しく「0.5%に収めなさい」となったら、しっかりした管理・手法や、部品の品質アップなどが必要になり、「こいつは特別だ」という感覚になってくる。
次に、各球場で使う球を検査した結果が掲載されていた。それによると
札幌ドーム :0.425
東京ドーム :0.428
神宮球場 :0.426
西武ドーム :0.423
ナゴヤドーム:0.427
ヤフオク :0.426
各地域で測定した結果が少しずつ違う。その「それぞれ違うこと」を「バラツキ」といい、「狙った値と比べてどれくらい違うか」を「カタヨリ」という。
そして、今何が問題になっているのかというと、プロ野球統一球のバラツキというのは大きいのだろうか?、という事と、カタヨリとしてはどれくらいずれているのだろうか?、という事だ。
バラツキを調べるには、「標準偏差」というのを計算する。カタヨリを調べるのは、ご存じ「平均値」だ。それぞれを計算すると、
標準偏差: 0.0017
平均値 : 0.4258
まず、そもそも平均値が規格の上限「0.4234」より大きい、とういうのは大きな着目点だ。
標準偏差については、工業用途ではそのまま使わず、さらに加工して「Cp」「Cpk」という指標を使う。とりあえずその値を計算すると、
Cp :1.94
Cpk :-0.47
Cpは、「バラツキの度合い」を示し、1.33以上なら、作った物の品質が十分と判断します。Cpkは「バラツキとカタヨリ」が混じった値で、これも1.33以上なら、問題ないと考えます。ついでに言うと、Cpkがマイナス値になるのは、平均が規格から外れた場合です。
なので、数字をいろいろいじった結果から見ると、プロ野球の統一球は、
・バラツキは非常に少ないが、カタヨリは非常に大きい。
となります。
工業製品を作る立場から見ると、バラツキとカタヨリはどちらも少ない方が良いのですが、「バラツキ」を少なくすることは、部品や作業方法や設備など総合的に対策・改善していかないと達成できないのに対し、カタヨリを少なくすることは調整で済むことが多く、比較的簡単です。さらに言ってしまえば、「カタヨリ」は狙って変更することもやりやすいです。
ところがプロ野球統一球は、その難しいはずの「バラツキ」が非常に精度良く出来ています。これは製造メーカーが優秀なことを表しています。しかし、狙って調整出来る「カタヨリ」は大きくずれています。
野球のボールなど作ったこともないまったくの部外者ではありますが、公表された数字を分析した結果を見ると、私にはこう見えます。
「バラツキ無く作れるのだが、規格中心を狙わず、高めの値を狙いすぎて、規格値を超えてしまった」
さて、どうなのでしょう?